BtoBのWeb活用におけるKPIの理想と現実

BtoBのWeb活用におけるKPIの理想と現実

目次

BtoB企業でWeb活用を担当されている皆様にとって、「Web活用においてKPIは不可欠である」という認識は広く浸透していると思います。特に、HubSpotのようなCRMやMAツールを導入された企業様においては。新しいツールを導入する際に、まず最初に理想的なKPIを設定し、データドリブンな意思決定を通じて事業成果を最大化するという華やかな未来図を描かれたことでしょう。

でも、現実はそうなっているでしょうか?

  • 設定したKPIが現場で機能せず、形骸化している
  • リード獲得数は増加したものの、商談化率が向上しない
  • 々な施策を実行しても、期待していた効果が測定できない

このような課題は多くの企業が直面している普遍的な悩みと言えます。なぜ私たちはKPIを巡る「理想と現実のギャップ」にいつまでも苦しむのでしょうか。

KPI設計に内在する「理想と現実」の乖離

KPIが進むべき方向を示す羅針盤であり、施策の成否を測る物差しであることに変わりはありません。しかし、その設計には乗り越えるべき現実的な壁が存在します。

1. 理想論に留まりがちなKPI設計

Web活用の専門書やセミナーでは、「最終的な売上目標から逆算して、各フェーズのコンバージョン率をSLA(サービスレベル合意)として定義する」「ロジカルにKPIを分解する」といった、非常に理論的で完璧な設計手法が解説されます。

しかし、組織を動かすのは純粋なロジックだけではありません。人は「利」や「感情」といった非論理的な要素によっても動きます。この事実を理解しているにもかかわらず、「KPI」を設定する段になると私たちはつい「あるべき論」に基づいた美しい絵を描きたくなってしまいます。これはもう人間の業のようなものなので、よっぽど注意する必要があります。

KPI設定時における理想論の弊害

  • 根拠となる過去データの不足
    現実的な目標値を設定するために十分な過去データがないため、設定値が「データに基づかない仮説」の域を出ない。
  • 部門間の連携と定義の欠如
    営業とマーケティングの間で「質の高いリード」の定義が異なり、部門間の協力体制を示すSLAが実質的に機能しない。
  • 現場感覚との隔たり
    現場の担当者は「それよりも優先すべき実務がある」と感じており、KPIが現場の動機付けになっていない。

理想的なKPIはあくまでも「目標」であり、「検証すべき仮説の集合体」です。
この前提を忘れるとKPIは現実から遊離した「机上の空論」となってしまいます。

2. KPIを達成するのは「システム」ではなく「人」である

HubSpotなどのツール導入はデータ収集や施策効率を劇的に向上させます。しかし、設定したKPIに向かって実際に施策を実行し、数値を改善するのは現場の「人」です。

どれほど精緻なKPIを設定したとしても、それを実行し、計測し、改善サイクルを回すのは現場の担当者です。「人間の感情」や「組織文化」といった要素を無視したKPI設計は、結局のところ、現場で活用されない「絵に描いた餅」に終わってしまう可能性が高いと言えます。

参考:組織文化と業績、どちらが先か?自動車販売店における因果優先性の縦断的研究
6年間にわたり95の自動車フランチャイズ販売店から収集したデータを用い、文化と業績の因果優先関係(文化か業績か)または相互関係の存在を明らかにするため、縦断的な文化と業績の関係を分析した。クロスラグパネル分析の結果、文化が「先行する」ことが示され、顧客満足度と車両販売台数の後続評価を一貫して予測した。さらに、文化が車両販売に及ぼす正の効果は顧客満足度評価によって完全に媒介されていた。
著作権 © 2015 John Wiley & Sons, Ltd. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/job.1985

KPIを「点」ではなく「流れ(CRMフロー)」で捉える

では、この理想と現実のギャップを埋め、KPIを真に機能させるためには、どうすれば良いのでしょうか。それは、KPIを単なる「点」の数値としてではなく、「活動の流れ」として捉え直すことです。私たちはこれを「CRM活用フロー」と呼んでいます。

CRM活用フロー(簡易版)

CRM活用フロー|簡易版 (2)

上記の活用フローはわかりやすく説明するための簡易版です。実際のCRM活用フローは下記画像のような粒度で行っています。(CRM活用フローについては12月16日開催のJBNウェビナーでも詳しくご説明しますのでぜひお申し込みください)

実際のCRM活用フロー(サンプル)

crm-flow-sample

CRM活用フローとは

見込み顧客がマーケティング活動を通じて商談化し、受注に至り、さらに既存顧客として関係を深めていくまでの一連の活動と情報が、CRMシステム内でどのように流れていくかを視覚化したプロセス図です。KPIはこの活動の流れの中のボトルネックを特定するために組み込まれます。
KPIを「流れ(フロー)」で捉えるべき理由は、それが単なる数値管理ではなく、組織で働く「人のモチベーション」と「顧客体験の質」に直結するからです。

「点」のKPIがもたらす三つの負の側面

KPIを単なる「点」(例:MQL数、資料ダウンロード率)として設定し、各部門が個別に追いかけると、現場にネガティブな影響が及びかねません。

1. 「部分最適」による組織の分断

マーケティング部門が「リード獲得数」の達成のみを、営業部門が「商談化率」の向上のみを個別に追求すると、本来共通の目標(売上拡大・顧客成功)を持つはずの組織が「分断」を生み出してしまいます。結果として、自分のKPI達成に意識が集中し、顧客体験の質が低下してしまうのです。

2. データの信頼性の低下

現場の担当者にとって入力作業は手間であり、「雑務」と認識されがちです。KPIが評価の「点」として厳しく使われると「数字を良く見せたい」という心理が働き、達成のために現場でデータが操作される動機が生まれてしまいます。これにより、CRMに蓄積されるデータそのものの信頼性が失われ、次の意思決定の基盤が崩壊し、KPIは機能を停止します。

3. モチベーションの低下と「諦め」の文化

担当者が努力しても、部門のKPI(点)が未達に終わった際、「なぜ失敗したのか」という原因が特定しにくい状態が続くと、「努力が報われない」という感覚に陥ります。「リードは取れているのに、なぜ売上に繋がらないのか?」—この原因不明の状態が続くと、現場スタッフは改善努力を諦め「やっても無駄だ」というネガティブな組織文化を生み出してしまいかねません。

KPIの本質は「仮説検証」と「自己変革」の手段

Web活用のKPI設計に「万能な正解」は存在しません。貴社の課題、組織体制、顧客像は全てが固有のものだからです。KPIは「目標」であると同時に、「現状の問題点を浮き彫りにするための仮説」であると捉えるべきです。だからこそ、KPI設計と運用の本質は「自己変革の継続的な繰り返し(PDCA)」に集約されます。KPIを「点」ではなく「流れ」の中で機能させるためにこの柔軟な前提に立ち返る必要があります。

今、あなたの会社が設定しているKPIは「現時点での最善(と思われる)の仮説」に過ぎません。この仮説が正しいかを検証し、もし外れていれば、躊躇なく修正していく柔軟さが求められます。

理想的なKPIを追いかけることがあなたの仕事の本丸ではありません。あなたが為すべきことは顧客の課題解決です。立場や役割は違えど、顧客の役に立つことが最優先されることは言うまでもありません。そのためにも、まずは「今、何が起きているのか」をCRMで客観的に把握し、「この数字の停滞はこの施策(仮説)が間違っていたからではないか?」と問い直し、仮説を立て直すことが重要です。

KPIを指標として一つずつ検証し、改善していくのは地道な作業です。ですが、最も確実な成果へのルートです。なぜなら、あなたの会社の正解はあなた方が自分で見つけるしかないからです。そして、それは検証のプロセスを通じて初めて見つけられます。上司だろうが社長だろうが同じです。誰も正解を持っていません。敢えていうならば、ユーザーの行動から意図や意味を紐解く姿勢が正解の見つけ方です。

CRMフローを通じた事業推進の伴走支援

株式会社JBNは、「Web活用のKPIは理想通りには進まない」という現実を深く理解しています。そのため、私たちは、最初から完璧なKPIを押し付けることはいたしません。お客様の事業と課題とカルチャーを深く理解するための対話から支援を始めます。

私たちが提供するのは単なるツール導入支援やデータ分析レポートではありません。HubSpotに対する深い知見と、長年のWeb活用支援で培った経験に基づき、お客様と対話しながら下記の具現化にコミットします。

  • CRM活用フローの作成と実現性のある設計
  • 態に即したKPI設定を共に見出す
  • 伴走型のPDCAサイクルの構築支援

Web活用の成果はKPIの数字を稼ぐことではありません。私たちは単なる外部ベンダーではなく、お客様企業の成長を共創するパートナーとして、CRM活用フローを通じてWeb活用をご支援いたします。
もし、貴社がHubSpotを導入されたものの、KPI設定の壁にぶつかり、なかなか成果に結びつかずに悩んでいらっしゃるのであれば、ぜひ一度、JBNにご相談ください。

12月にセミナーを開催します!

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統計・リサーチ・ダッシュボードで広がるビジネスの可能性

開催 12月16日(火)
  • 第1部 「今こそ企業が知っておきたいデータ活用の勘所」 西内啓氏(統計家/ソウジョウデータ)
  • 第2部 「インサイト発見からビジネスの意思決定に使えるデータ活用法」 佐藤邦弘氏(日経リサーチ)
  • 第3部 「見える化の先へ——KPIから考える“行動に繋がるダッシュボード設計”」
    三瀬薫氏(HubSpot Asia)× 稲田英資(JBN) 

     

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