【コラム6】「消費者」という人はいない(後編)
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こちらのコラムの続きになります 「消費者」という人はいない(前編)
私は以前、某自動車ディーラーに勤務していたことがあります。ニューモデルの発売日が近づくとメーカーから販売用の資料が届くのですが、該当車種のアピールポイントや競合車との優位点などの他にターゲットとするモデル像(つまりペルソナ)が書いてある場合があります。35才と33才の夫婦で子供が2人とペットがいて休日は何々をしている云々、といったテキストにイメージイラストが添えられてるといった体裁です。
これが企画開発段階やプロモーション段階で大きな意味を持ったであろうことは容易に想像できます。では最前線である販売店の販促やセールス活動にとってどうだったでしょうか。
販売の現場でもメインターゲット像はその商品を理解するのに大いに参考にはなりますが、販売活動自体についていえばほぼ影響を受けずに推移します。
車の販売はほとんどの場合対面でなされ、次々と現れるさまざまなタイプの相手(見込客・顧客)の状況に応じたセールス活動が展開されるのみです。販売会社や店はそれを宣伝広告でバックアップしていきます。接点ができた見込客に対し、言葉や資料を駆使してクルマの魅力を伝えていき、その手順や手法の差が結果となって現れます。つまり結果は売り手の行動に大きく左右されます(売り手主導)。
これがWebの場合だと、売り手はほぼ何もできないので、まずするべきは買い手がどのように考えるのか、どのように行動するのかをできるだけ的確に把握することです(買い手主導)。しかし前編で述べたように買い手(消費者)という人はいないわけですから、そこでペルソナの登場となります。
Webディレクターはこの辺の事情を十分に理解していますし、それを説明する言葉も有してはいますが、面談を中心とした経験を積み上げてきた人の納得を引き出しながらペルソナの設定をするのは容易ではありません。
「そりゃー20代の女性がターゲットだけれど30代にも40代にも買って欲しいんだよね。なかには男性でも買う人いるんだよ」「ペルソナって、こんなに細かく規定しても、実際にこんな人いる?」「これが最終的にどう売り上げに結びつくのか、どうしてもイメージ出来ないんだけど」などなど、噛み合わない会話をなんとかまとめて次のステージへ向かわねばなりません。UXはペルソナなしではしっかり推進できないため、ここは手を抜けないのです。
もっと困るのは、なぜペルソナが必要かを理屈の上だけで理解して、本当に腹に落ちないままディレクターに言われるままに作られるケースです。せっかく作られたペルソナが、プロジェクトの進行とともに顧みられなくなることが少なくないからです。
思い当たるふしのある方は、プロであるディレクターの言葉を、たとえ時間がかかっても本当に納得のいくまで質問しながら耳を傾けることをお勧めします。
執筆者:JBN塚原